相続・事業承継関連情報

相続税の納税手段・・・自社株の物納と金庫株

財産の大半が自社株であるという事は、中小企業の創業オーナーに関しては、珍しくないケースです。
その場合、創業オーナーが死亡し相続が発生した時に、財産を相続した後継者が相続税を支払う場合に、後継者がもともと現金資産を保有していなければ、納税資金となる現金が乏しくなる可能性は十分にあります。
そうならないように相続が発生する前に色々な対策を講じておくべきなのですが、仮に、全く対策を講じていなかった場合、有効な納税手段は全く無いものでしょうか?
実は、金銭による相続税納付が不可能な場合、自社株を物納する事も可能なのです(その自社株が物納するに適格である場合)。今回のリポートは「自社株の物納」についての情報をお届けします。
取引相場の無い株式についての物納要件は、平成18年度の税制改正で物納許可基準が緩和され、
〇株式に譲渡制限がついていない事(ついている場合には外せばOK)
〇買戻しが確実である事
の2点を満たすものであれば、物納できる事となりました。

通常、オーナーが生前に自社株を発行会社に売り渡す場合には、受取った売却代金については取得費を除いた部分についてはみなし配当とされ、最高税率で約43%の税率が課せられます(生前金庫株)。オーナーに相続が発生し、後継者が相続した自社株を発行会社に売り渡す場合でも、譲渡益部分については譲渡益課税として20%の税率が課せられるのです(相続金庫株)。
それが、自社株を物納できる場合には、物納による資産譲渡は非課税とされているので(租税特別措置法第40条の3「物納による譲渡所得等の特例」)、一切課税関係は生じないのです。つまり、条件が揃えばですが、売却よりも物納の方が税負担という観点からは有利なのです。

(自社株物納に関してのスケジュール)
物納申請する場合には、相続開始から10ヶ月以内に所定の書類を備えて所轄税務署長に提出をしなければなりません。この申請について税務署長は、原則3ヶ月の審査期間中に、許可又は却下の判断を行う事とされております。3ヶ月以内に税務署から却下等の連絡がなければ、物納が許可されたものとみなされるようになりました。
(譲渡制限を外す事について)
自社株式を物納する為には、譲渡制限が付いていない株式もしくは付いていれば、外すことが必要です。物納申請時=相続税の申告期限までに、譲渡制限を外す定款変更をし、株券不発行会社となっている場合には株券発行会社になる旨の定款変更をして、かつ、それぞれ登記しなければなりません。譲渡制限を1株でも外すと公開会社となります。公開会社となった事により、上場会社同様の会社法上の規制の対象となりますので、十分に確認が必要です。
(戦略的物納に関して)
物納が可能であるかどうかというのは、相続税を納付する人毎に判定されます。例えば、現金資産を持っていない孫を養子にして、自社株を相続させるか遺言で遺贈するという方法をとります。

 一般的には、現金資産を持たない孫は現金納付ができません。また、延納して

分割払いにするほどの収入も無いので自社株の物納が許可される可能性が高い

といえます。

※本記事に関して、掲載されている施策を実行する事によって生じる効果・影響について弊社は一切の責任を負うものではありません。説明を簡略・省略している部分もありますので、施策を実行する際には、専門家に十分相談してから個々の責任において判断をする様、お願い申上げます。

会社を清算して一段落・・・ところが思わぬ落とし穴が!

会社を存続させずに、清算して幕を降ろす・・・それも「事業を承継しない」という事業承継対策の一つの形です。ただ、手法を誤ると、借入金を全額返済して、会社を清算して、残余財産を受け取るはずが税金という借金しか残らない場合があるのです。
下図例1のような会社があったとします。会社を清算しますので、保有している土地を時価で売却して、得た資金を負債の返済にあてるのですが・・・・


ケース①土地を解散前に売却した場合ケース②解散後に土地を売却した場合 では、課税関係について大きな違いが発生します。 ~ケース①について、結果的に負債を返済すると~
1,000,000千円(土地の売却金額)+10,000千円(現金)―1,000,000千円(負債)-123,000千円(法人税等)=△113,000千円・・・・債務を返済して更に税金の支払義務が残る!
~ケース②について、結果的に負債を返済すると~
1,000,000千円(土地の売却金額)+10,000千円(現金)―1,000,000千円(負債)―0(法人税等)=10,000千円・・・債務を返済して手元に10,000千円が残る!
なぜ、このような違いになってしまうのでしょうか?
ケース①の場合、法人が所有している土地を売却したのは会社を清算する前の為、この場合、売却代金―帳簿価格を利益として計上し、当然法人税を払わなければいけません。ところが、会社を清算中に土地を売却すると、その年度の所得計算方法は通常の事業年度とは異なった計算方法になってきます。会社を解散した場合は、その事業年度開始の日から「会社解散の日」までの期間を1事業年度とみなして、2ヶ月以内に申告・納税をしなければなりません。この場合の所得金額の計算は、通常の事業年度と同じ方法で計算します(ただし、いくつかの適用できない特例があります)。

「会社解散の日」以降については、「残余財産の確定の日」までを1事業年度として所得を計算するのですが、この場合の所得の計算式は次の通りになります。

と、いう事は、会社解散の日から残余財産確定の日までに土地を売却して、すぐに売却代金で債務の返済に充てれば、売却代金は残余財産の中に残らないので、清算所得に対する法人税は発生しないという事になります。かつ、ケース①では資本の払い戻しを受ける事もできます。この事は同様に、親会社が債務超過の子会社を保有していて、親会社から子会社へ貸付が相当額あり、親会社が子会社に対しての貸付を債務免除した場合についても、子会社が会社解散前に債務免除を受ければ、当然債務免除益が発生し、法人税の対象となります。
ところが、子会社が会社解散後に債務免除した場合については、金融機関への債務返済等で、子会社の残余財産(清算所得)が残っていなければ、法人税は発生しないという事になります。会社解散時に資産売却や債務免除を実行するときは、実行の時期を少し変えるだけで法人税の負担も大幅に変わってくる可能性がありますので、細心の注意が必要です。※掲載記事につきましては、弊社の見解に基づくものであり対策の時期や目的、規模、期間、対象の個別事情においては想定される効果が出ない場合があります。実際の判断に当たっては、事前に専門家に必ずご相談の上、自己の責任において実行するようにしてください。

会社を清算して一段落・・・ところが思わぬ落とし穴が??

会社を存続させずに、清算して幕を降ろす・・・それも「事業を承継しない」という事業承継対策の一つの形です。ただ、手法を誤ると、借入金を全額返済して、会社を清算して、残余財産を受け取るはずが税金という借金しか残らない場合があるのです。

上図例1のような会社があったとします。会社を清算しますので、保有している土地を時価で売却して、得た資金を負債の返済にあてるのですが・・・・ ケース①土地を解散前に売却した場合ケース②解散後に土地を売却した場合では、課税関係について大きな違いが発生します。

~ケース①について、結果的に負債を返済すると~
1,000,000千円(土地の売却金額)+10,000千円(現金)―1,000,000千円(負債)-123,000千円(法人税等)=△113,000千円・・・・債務を返済して更に税金の支払義務が残る!
~ケース②について、結果的に負債を返済すると~
1,000,000千円(土地の売却金額)+10,000千円(現金)―1,000,000千円(負債)―0(法人税等)=10,000千円・・・債務を返済して手元に10,000千円が残る!
なぜ、このような違いになってしまうのでしょうか?
ケース①の場合、法人が所有している土地を売却したのは会社を清算する前の為、この場合、売却代金―帳簿価格を利益として計上し、当然法人税を払わなければいけません。ところが、会社を清算中に土地を売却すると、その年度の所得計算方法は通常の事業年度とは異なった計算方法になってきます。 会社を解散した場合は、その事業年度開始の日から「会社解散の日」までの期間を1事業年度とみなして、2ヶ月以内に申告・納税をしなければなりません。この場合の所得金額の計算は、通常の事業年度と同じ方法で計算します(ただし、いくつかの適用できない特例があります)。

「会社解散の日」以降については、「残余財産の確定の日」までを1事業年度として所得を計算するのですが、この場合の所得の計算式は次の通りになります。

と、いう事は、会社解散の日から残余財産確定の日までに土地を売却して、すぐに売却代金で債務の返済に充てれば、売却代金は残余財産の中に残らないので、清算所得に対する法人税は発生しないという事になります。かつ、ケース①では資本の払い戻しを受ける事もできます。
この事は同様に、親会社が債務超過の子会社を保有していて、親会社から子会社へ貸付が相当額あり、親会社が子会社に対しての貸付を債務免除した場合についても、子会社が会社解散前に債務免除を受ければ、当然債務免除益が発生し、法人税の対象となります。
ところが、子会社が会社解散後に債務免除した場合については、金融機関への債務返済等で、子会社の残余財産(清算所得)が残っていなければ、法人税は発生しないという事になります。
会社解散時に資産売却や債務免除を実行するときは、実行の時期を少し変えるだけで法人税の負担も大幅に変わってくる可能性がありますので、細心の注意が必要です。

役員退職金、適正額は?

会社がオーナー兼社長に「役員退職金」を支払うということは、会社が今までのオーナーの功労に報いるとともに事業承継の観点からも非常に重要な意味を持つ事になります。
自社株評価方式の一つである「純資産価額方式」、会社がオーナーに生存退職金を支払う事によって、現金が法人→個人(オーナー)に移転します。当然、会社の純資産も減ることになるのです。と言う事は、オーナーが保有している自社株の評価額(純資産価額方式による評価額)も減る事になります。

このように、事業承継対策としてもオーナーに退職金を支給する事は、有効な対策の一つと言えるでしょう。それでは、いくらでも退職金を支払っても良いのでしょうか? 一般的には 

で計算する事ができますが、過大になると法人税法上否認されます。それでは税務上「適正な額」というのはどのようにして決まるのでしょうか。
過去の判例を参考にすると、適正な額であるとして退職金が認められるポイントは・・・
○退職金の損金算入限度額の計算にはその後において類似業種一年あたりの退職金平均額をもって比較する(札幌地判 昭58.5.27)
○事業規模が類似する同種事業の法人支給事例の平均功績倍率(を参考とする)(東京地判 昭49.12.12)と、あります。
上記判例にもあるように、同規模・同業種の支給実績が一つのポイントになっているようです。しかし、当然の事ながらそのような支給実績は公表されておりませんし、支給実績だけでなく、在任年数や在職中の功績やその職務の内容、退職事由、支給時の法人の財務内容等、これらを総合的に判断して適正かどうかを判断していると思われます。
これらの判断基準以外に、退職金規定を作成していなかったり、作成した規定に関して取締役会・株主総会の決議、その議事録を残していなかったりすると、退職金が否認される要因となります。 役員退職金の支給額決定については適正な額であるかどうか、十分な検証が必要です。

弊社ホームページ掲載記事に関して

弊社HPにお越しいただきまして誠にありがとうございます。
掲載の相続・事業承継関連記事に関しては、あくまで弊社の見解の一つとしてのものであり、掲載記事の対策に関してどのような場合においても掲載されている効果を約束するものではありません。
従って、掲載記事に関する対策を実行することによって生じる効果・影響について、弊社は一切の責任を負うものではありません。対策を実行する前に必ず弊社もしくは他の専門家にご相談の上、ご検討いただけますよう、お願い申上げます。
尚、掲載記事・画像の無断転用を禁じます。
株式会社アンセルコンサルタンツ神奈川

「従業員持株会」中小企業経営者の視点からのメリット・デメリット 

上場企業など大企業では、積極的に導入されている制度「従業員持株会」ですが、事業承継対策として中小企業でも導入を検討する光景がよくみられます。
そこで今回は中小企業経営者の視点から「従業員持株会」を相続・事業承継分野におけるメリット・デメリットを中心に検証していきます。 (非上場中小企業における一般的な従業員株主会のイメージ図)

(メリット)
①福利厚生制度・・・配当を出すことによって、社員の財産形成の支援となる。
②社員のモチベーションアップ・・・経営の参画意識の向上を図る。
③資金調達の一手法となる。
④特殊支配同族会社対策・・・特殊支配同族会社に該当すると役員給与の一部が損金不参入になる。 (持株会に10%超の株を保有させることで免れる。)
⑤株価引下対策・・・株主が持株会に株式を売却する場合、増資した分の株式を持株会が保有する場合、どちらのケースにおいても持株会は同族関係者ではありませんので、対象株式の株価は特例的評価方法である「配当還元方式」という原則的評価方法より非常に低く株価を算出する事ができる方式(一般的に)で計算致します。よって、少ないコストで株主の相続財産を減らしたり、一株あたりの単価を引下げる事も可能です。
(デメリット)
①議決権の問題・・・「少数株主の権利」として3%の議決権を保有していれば帳簿閲覧権、1%以上で提案権、1株以上で代表訴訟提起権が行使可能となっております。経営を脅かされると言う事はありませんが、安定的に経営をするという観点からは、持株会が経営に参加できる権利を保有しているという事は非常に難しい部分もあるのではないでしょうか。「特殊支配同族会社対策」以外の目的で持株会を設立している場合には、議決権を無くして配当を優先する種類株式「配当優先無議決権株式」を持株会に保有させる事も可能です。ただ、「特殊支配同族会社対策」で持株会を設立している企業については、持株会が保有する株式については議決権を持たせないと効果がありません。議決権を制限していると持株会の株式も社長が保有しているものとみなされますので注意が必要です。
②配当の問題・・・継続して配当を出し続けていく事は、株主である持株会に対する義務と言っても過言ではないでしょう。上場企業であれば当たり前の話ですが、中小企業の経営者にとってそれが重荷となってしまうようでは、本末転倒なところも感じます。
③従業員退職時の問題・・・持株会の会員である従業員が退職した際には、「持分返還」といって、登録配分された株式を現金にて払戻を受けることになります。この株式の価格ですが、規約でしっかり決めておかないと、従業員退職時に実質的に退職金の上乗せのような感じになって、不本意に高額買取を決断せざるを得ない事となります。規約に「従業員退会時に持分の払戻を受けた株式の評価は、配当還元価額を参酌して行う」と必ず明記する事が必要です。
また、持株会以外の①オーナー、または②会社(金庫株として)が買い取る場合、それぞれ納税リスクが発生します。
①の場合には同族株主が株式を取得する場合ですので低い特例的評価方法(配当還元方式)ではなく、通常の原則的評価方法にて算出された価額で買い戻しをしないと、買い取るオーナー側に贈与税の納税リスクが発生します。②の場合も同様に、金庫株として会社が買い取ると、買い取った株式については価値は消滅します。そうすると、実質の発行株数が減少し、一株あたりの価値が上昇します。これによって、価値の上昇分について他の株主に贈与したとみなされ、他の株主に贈与税の納税リスクが発生してしまいます。

④持株会運営上の問題・・・持株会は設立も比較的簡単にできます

 。簡単な割に節税効果もあります。しかし、設立するだけして、

  本来の目的である「従業員の福利厚生・資産形成」が見落とさ

  れ、設立後の持株会運営が全くなされていないような「幽霊従

  業員持株会」になってしまっている状況もあるようです、そ

  ういった事を防ぐ為に、設立した後のメンテナンスも必要です。

  メンテナンスを怠ってしまったばかりに「脱法行為」と税務調

  査で否認された例もあります。従業員が持株会に入っているこ

  とを知らなかったというのは問題外です。従業員が自主的・民

  主的に持株会の運営を行い、理事会、総会等は確実に開催し議

  事録も残します。株主である持株会の会員の従業員に対して決

  算書が公開されていないというのも問題です。

「相続税法上認められる従業員持株会」である事が大前提です。

特に重要だと思われるところをメインに掲載しましたが、これだけ

でも従業員持株会というのは「決して簡単に導入できるものではな

い」というのがおわかりいただけたのではないでしょうか。

まだまだこの他にも細かい規制や留意点があります。持株会導入を

検討されている方は時間をかけて多方面から検討し、専門家に相談

される事をおすすめ致します。

遺言の方式

遺言書は相続時のトラブルを防ぐ為に大きな効力をもつため、内容に不明確な点があったり、正確に被相続人の遺志が反映されているものでないと問題が起こりかねません。
そのため民法では遺言の種類に応じてそれぞれの方式を厳格に定めていて、この方式に従っていない遺言書は無効となってしまいます。
遺言書の方式には、普通方式(3種類の遺言)と特別方式(2種類の遺言)があります。
(普通方式)
〇自筆証書遺言
遺言者が自筆にて作成する遺言。いつでも自由に作成でき、内容を誰にも知られずに済みます。ただ、方式の不備や内容に不明確な箇所があれば、遺言が無効になったり相続時にトラブルのもとになる恐れがあります。また、作成が手軽な反面、偽造・変造・破棄される可能性も否めません、保管場所等注意が必要です。
相続開始時に家庭裁判所による検認手続きが必要です。遺言書に封印がしてあるときは、家庭裁判所で相続人立会いのもとで開封します。勝手に開いてはいけません。
〇公正証書遺言
公正証書遺言は公証人に遺言の内容を述べ、公正証書を作成してもらうものです。法律の専門家である公証人が筆記作成する為、最も安全・確実な遺言として利用される方が増えております。
作成にあたりましては原則、公証役場に遺言者が出向いて作成してもらいますが、遺言者が高齢や病気で出向くのが困難な場合は公証人は自宅や指定の場所まで出張してくれます。公正証書遺言作成時には2人以上の証人(相続人・受遺者等以外の第三者)の立会いが必要です。
公正証書遺言の利点は、原本が公証役場に保管される為、遺言書の偽造や紛失の心配がありません。そして、公証人が作成しますので、形式の不備などで遺言書が無効になってしまうことはありません。相続開始の際に家庭裁判所の検認を受ける必要も無く、遺言書を開封することが出来ます。
〇秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言の内容を秘密にしながら遺言の存在を公証人に証明してもらうというものです。遺言者が自分で遺言書を作成(ワープロや代筆でもOK、ただし署名は自筆。)し、公証人が関与しますが、遺言書を自分で保管することは公正証書遺言とは異なる点です。
公正証書遺言と同じく証人が2人以上必要です。自筆証書遺言と同じく家庭裁判所の検認の手続きが必要です。
(特別方式)
〇危急時遺言
病気や怪我で死亡が迫っている場合に認められる遺言です。
〇隔絶地遺言
伝染病などのために行政処分によって交通を遮断された場所にいる人や、航海中に遭難した舟にいる人が行う遺言です。

法定相続分と遺留分

(法定相続分:例)
①相続人が配偶者と被相続人の子供2人のみの場合・・・・配偶者1/2 子供一人当たり(1/4)×2人
②相続人が配偶者と被相続人の父と母(直系尊属)のみの場合・・・配偶者2/3 父1/6 母1/6
③配偶者と被相続人の兄(兄弟姉妹)・・・配偶者3/4 兄1/4
※配偶者がいない場合、その全部を受ける順位は(1)子(2)直系尊属(3)兄弟姉妹となる。
(遺留分)
①配偶者と被相続人の子の場合・・・法定相続分×1/2
②配偶者と被相続人の親の場合・・・法定相続分×1/2
③配偶者だけの場合・・・法定相続分×1/2
④子供だけの場合・・・法定相続分×1/2
⑤親だけの場合・・・・法定相続分の1/3
※兄弟姉妹には遺留分は無し

経営承継円滑化法「民法特例」について

「遺産分割問題」の多くが「遺留分」に関する問題であると言われます。
中小企業のオーナーに相続が発生した場合、遺産のうち、大部分が自社株式であったという話は良く聞くケースです。その自社株式につきましては、後継者となる相続人が相続しますので、他の相続人が相続する遺産価額は後継者である相続人と比べて格段に少ないケースが多いものです。少ないだけならまだしも、これが後継者以外の相続人の遺留分も侵害していたと言う事になると、紛争へと発展してしまうケースが見られます。
ましてや、遺留分を計算する算定基礎財産は、過去に相続人が受けた贈与財産も現在価値に持ち戻して総額を計算してから遺留分を算定(詳しくは通信2月号「生前贈与と特別受益の持ち戻し」をご参照ください)しますので過去に受けた贈与財産について相続人同士で不公平感があれば、尚更、深刻な問題に発展する可能性が高くなります。
平成20年10月から施行の「経営承継円滑法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)」その中の「民法特例」には、後継者を含む経営者の推定相続人全員の合意により、経営者から後継者に生前贈与された自社株について、
①遺留分算定の基礎財産から除外する「除外特例(除外合意)」
②遺留分算定の基礎財産に算入する際の価額を固定する「固定特例(固定合意)」
があります。 
①につきましては、旧代表者から贈与により取得した株式などの全部または一部につき、その価額を遺留分に算定する為の財産の価額に算入しないことを推定相続人全員の合意によってできるということです。
次に、②につきましては、後継者が生前贈与によって取得した自社株式等の全部又は一部について、あらかじめ合意した時点の価額に固定できるということを推定相続人全員の合意によってできるものです。現行の民法では、後継者が生前贈与によって取得した自社株式を遺留分の算定基礎財産に含める時の価額は、相続開始時の価額で持ち戻す事になっており、後継者の貢献により株式評価が上昇した分だけ遺留分の価額も上昇するという事になります。「除外特例」は、後継者の貢献により株式評価が上昇した分については、遺留分の算定基礎に含めない事ができるという特例です。

※特例適用の為には細かな条件があります。ご確認ください。 「除外合意」で完全に自社株の生前贈与分を遺留分の算定基礎財産から除外できれば言う事なしですね。しかし、除外合意に対して他の相続人が、「そんな不公平、納得できない」という事ならば、せめて自社株が移転してからの株価上昇について、後継者の貢献が多大にあったと言うことであれば、株価上昇分については遺留分から除いてよい(固定特例)という落としどころでしょうか。 将来、値上がりが見込める自社株式については、「納税」の観点からの対策は、「相続時精算課税制度」を使った贈与で相続税を算出する際の遺産総額に当該株式を含める価額を贈与時の価額に固定、「分割」の観点からの対策は、「固定合意」で遺留分を算出する際の算定基礎額に当該株式を含める価額を贈与時の価額に固定するという両方の側面からの対策は非常に有効なのではないでしょうか。
民法特例に関しましては、「固定合意」「除外合意」どちらにしても推定相続人全員の書面による合意が必要です。ということは、被相続人が存命中に、民法特例を題材に推定相続人達と良く話し合う、コミュニケーションを深めるきっかけ作りになるというのは非常に大事な事ではないでしょうか。ただでさえ、推定相続人の方からはもちろんですが、被相続人の立場からしても、自分が死んだ時の事というのは中々話しにくいものです。「固定合意」「特例合意」が制定されたのをきっかけとして、推定相続人達ととことん話し合ってみること、それが「円満な相続・事業承継」を実現させる第一歩なのではないでしょうか。

自社株の生前贈与について

企業経営者様で、後継者がご子息等の親族の場合、ご自身が保有している自社株式を生前に後継者へ贈与するケースは良く見られます。しかし、相続税が少しでも安くなる等の「納税」の観点からだけではなく、「分割」の観点と、両方の側面から本当に良い対策なのかどうかを検証してみる事は重要です。
当然、非課税枠である年間110万円の枠内で自社株を暦年贈与で後継者に移していけば、経営者が亡くなるまでに経営者の相続財産が減っていきますからその分、子供達が払う相続税が少なくなることが予想されます(税法上では相続発生3年以内の生前贈与財産については相続財産に持戻しされます)。
しかし、民法上の処理は異なり、遺産分割の際にはそれらの生前贈与財産も含めて相続分を計算しなければなりません。もちろん「遺留分」の計算についても同じことです。
自社株以外の相続財産が少ない場合、相続発生時に「納税」「分割」の観点から考えられるリスクは以下の2点です。
①後継者のご子息が換金性の乏しい自社株しか相続できずに、相続税を払えない可能性。
②自社株以外の財産でご子息(後継者)以外の相続人の「遺留分」をカバーすることができない場合、遺留分の減殺請求で、ご長男が相続した自社株を手放さなければいけない可能性。
これらのリスクを回避する為に、まずは、現時点で相続が発生した場合、  
①それぞれの相続人に、どの財産を相続させるのか。その時に相続税をどの位払う事になるのか。  
②①の通りに財産が分配された場合、「遺留分」の問題はクリアか?クリアでなければ、遺留分   を満たす財産を準備する(現金・不動産・生命保険等)。  
③遺留分の問題がクリアであれば、①②を実現可能にしながら相続税をできるだけ節税できる   方法を探す
という順序で検討していくというのをお薦めいたします。
まずは現状分析です。もし、遺留分の問題がクリアにならなければ、「贈与」ではなく、後継者が社長より自社株を買取る「譲渡」の方が、遺留分の算定基礎には入らずに自社株の移転が可能です。自社株を買取る為の資金捻出方法については色々あります。税率も譲渡益に対して20%(所得税15%住民税5%)なので想定される相続税より低ければ自社株の譲渡は有効な対策になります。
遺留分を含め「分割」の問題がクリアになっていれば、暦年贈与は有効です、年間110万円の非課税枠だけでなく、10%の贈与税率である310万円以内で暦年贈与していった方が想定される相続税率より低ければ、より早く、効果的に資産移転をできる場合もあります。

少数株主の権利について

「少数株主の権利」として代表的なものは、「株主代表訴訟」です。
これは1株でも保有していれば、13,000円の訴訟手数料(印紙代)で訴訟が可能です(民事訴訟費用などに関する法律4条2
項・別表1)。
後は議決権の3%を保有していれば、
○会計帳簿の閲覧・謄写請求権(会社法433条)
○株主総会召集権(会社法297条、6ヶ月以上株式を保有)
○取締役解任の訴え(会社法854条、6ヶ月以上株式を保有)
○業務の執行に関する検査役選任権(会社法358条、不正行為、定款違反行為ある時に裁判所に申し立て)
○取締役の責任免除に対する異議権(会社法426条(5))
以上の権利が認められており、1%保有していれば、
○株主総会への株主提案権(会社法303条~305条)、議案の通知請求権(会社法305条)
○株主総会検査役選任請求権(会社法306条、6ヶ月以上株式を保有)
以上の権利が認められており、株主であれば単独でも可能な権利については
○定款(会社法31条(2))・株主名簿(同法125条(2))・計算書類(同法442条(3)の閲覧・謄写請求権
○株主総会議事録(会社法318条(4))、取締役会議事録(会社法371条(2)(3))の閲覧・謄写請求権(取締役会議事録は裁判所の許可が必要)が認められております。

自社株は「準共有」です!!

相続が発生し、遺言等が無い限り、遺産は法定相続分で相続人が相続いたします。
その場合、
○債権債務は「当然分割」
○不動産は「共有」
○自社株は「準共有」(民法264条)で分割されます。
「準共有」ってどういう事でしょうか?例えば相続が発生し、被相続人が保有していた自社株30,000株を相続人3人(後継者で長男のA、Aの弟BとC)で、準共有で相続したとしましょう。
その場合、「一人10,000株を所有」したのではなく、「30,000株を3人で所有」していることになるのです。
それでは3人で準共有状態なっている30,000株の議決権行使はどのようになるのでしょうか?
例えば、後継者Aが30,000株の議決権を行使する際に、弟のBとCが反対すれば、準共有状態になっている30,000株についてAは、議決権は行使できません。それどころか、BとCが30,000株を他人に売り渡すと決めたら、Aは拒むことが出来ません (株式の譲渡制限については考えないものとして)。
このようなリスクは相続が発生する前に対策をきちんと立てておきましょう。

生前贈与と「特別受益の持ち戻し」について

生前贈与と「特別受益の持ち戻し」について
税法上では、相続発生3年以前の生前贈与については既に贈与税を納付して被相続人の財産から切り離されているものですから、相続税を計算する為の課税対象資産には含まれません。
しかし、法律(民法)上の処理は違い、遺産分割の際にはそれらの財産を含めて相続分を計算しなければなりません。もちろん、「遺留分」の計算についても同じです。該当する贈与や遺贈の事を「特別受益」と呼び、それらを遺産に含める事を「特別受益の持ち戻し」と呼びます。
「特別受益の持ち戻し」につきましては、ある家庭の父親が死亡し、相続が発生し、遺産分割時に長男・次男が法定相続分で分割したとして、
「兄貴は留学した時の費用だとか、結婚して家を買った時の費用も親父に出してもらったのに、俺には一銭も出してくれなかった!なのになんで俺と兄貴が貰う額が同じなんだ!!」
という不公平感を無くす為の制度とも言えます。 
「特別受益」に該当するものは、学費や一人暮らしの生活費、事業の援助などを含んだ「生計の資本」として贈与、婚姻・養子縁組の為の贈与、遺言による遺贈等の財産とされております。
また、特別受益の価値は「相続が発生した時点での価値」となりますので、ご注意下さい。5,000万円の土地を生前贈与で受け取ったが、相続発生時にはその土地が1億円になっていたら、その土地の価値は1億円になります。  「特別受益」が相続分を超えていたとしても、他の相続人に超えていた分を支払う必要はありません。しかし、「特別受益」が他の相続人の遺留分を侵害していた場合には、他の相続人の遺留分減殺請求によって、特別受益者は遺留分を侵害した分を支払う事になります。  被相続人が「特別受益を財産に加えない」という意思を遺言で表示している場合は、特別受益を持ち戻さない事も可能です。ただし、「遺留分」の制限は受けます。  ※具体的にどのような財産が「特別受益」として認定されてしまうのかはご相談下さい。

株主総会の決議要件について

株主総会の決議要件について
〇普通決議
定款に定める場合を除き、総株主の議決権の過半数を有する株主の出席、出席株主の議決権の過半数の賛成により成立。
(取締役の選任・解任・決算の承認等)
〇特別決議
定款に定める場合(総議決権の3分の1以上)を除き、総株主の議決権の過半数を有する株主の出席、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成により成立。
(定款変更・自己株式の取得・新株発行・相続人への売渡請求、会社又は指定買取人による買取決議・役員の責任免除等)
〇特殊決議
議決権を有する株主の過半数、かつ当該株主の議決権の3分の2以上の賛成により成立。
(株主譲渡制限のための定款変更等)
〇属人的種類株式に関する決議
総株主の過半数、かつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成により成立。

定款について

 「定款」とは株式会社(経営者)と株主との契約のことです。ここでは、定款を作成する際に、必ず記載しなければ定款の効力が生じない事項(絶対的記載事項)と規定を定めたら必ず定款に定めなければいけない事項(相対的記載事項)、定款に定めなくても良いが、一旦、定款に定めたら定款変更しない限り規定を変更することはできない任意的記載事項をご紹介いたします。
「絶対的記載事項」
〇目的
〇商号
〇本店所在地
〇設立時、出資する財産の価額又はその最低額
〇発起人の氏名又は名称及び住所
〇発行可能株式総数

「相対的記載事項」
〇株式の譲渡制限に関する事項
〇相続人等に対する株式の売渡請求
〇特定の株主のみと株式の売買契約を締結できる規定(先買権者・買受人の指定等)
〇設立時、現物出資に関する事項

「任意的記載事項」
〇株主総会の召集地
〇株主総会の議長
〇公告方法

定款作成の流れは
株式会社設立の企画者である発起人(必ず1株以上の株式を引き受ける義務)全員が記名押印した「原始定款」の作成

本店所在地を管轄する法務局所属の公証人に、原始定款の認証を受ける。

効力発生(株式会社設立までは認証を受けた原始定款の内容を変更することはできません)

登記書類を揃えて法務局に登記申請・・・法人設立

売渡請求

相続や合併等により会社にとって好ましくない者に株式が分散することを防ぐには、どうしたらよいのでしょうか?
それに対しては、相続や合併などで株式を取得したものに対して、会社がその株式を売り渡すように請求できる旨を定款で定めることができます。

これまで、株式を譲渡制限株式とした場合でも、相続や合併等の事由による株式の移転は制限できなかった為、会社にとって好ましくない者に株式が分散されるのを防ぐことができませんでした。 新会社法では、定款で定めることにより、会社が相続等で移転した譲渡制限株式について売渡請求を行う事が可能になり、会社が強制的に相続で渡った自社株式を買い取る権利を発生させることができ、会社の経営を安定させることができるようになります。 (注意点)請求期限:相続があった事を知った日から1年以内に株主総会の特別決議を経て請求。 売買価格:原則、株式の売買価格は当事者間の協議によりますが、協議が不調な場合、     裁判所に売買価格決定の申し立てができます(売渡請求の日から20日以内)。財源規制:剰余金分配可能額を超える買取はできません。

経営承継円滑化法 税法措置「相続税の納税猶予制度」について

「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」
第四章 雑則
(相続税の課税についての措置)
第二条 政府は、平成二十年度中に、中小企業における代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い、その事業活動の継続に支障が生じる事を防止するため、相続税の課税について必要な措置を講ずるものとする。

上記より、取引相場の無い株式における、「相続税の納税猶予制度」が創設されます。本制度は、平成21年度改正で創設し、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の施行日(平成20年10月1日)以降の相続に遡って適用されます。
(制度の概要)
「後継者が相続又は遺贈により取得した自社株の80%に対応する相続税の納税が猶予されます(但し、発行議決権総数の2/3まで)」
(適用の要件)

~会社について~
☆「中小企業基本法の中小企業であること」
〇製造業その他・・・資本金3億円以下又は従業員数300人以下
〇卸売業    ・・・資本金1億円以下又は従業員数100人以下
〇小売業    ・・・資本金5000万円以下又は従業員数50人以下
〇サービス業  ・・・資本金5000万円以下又は従業員数100人以下
☆相続開始後に経済産業大臣に申請・認定を受けた中小企業でないと適用されない。
☆納税猶予が認められても、相続申告期限から5年間は経済産業大臣のチェックが入る(毎年1回報告)

~非相続人について~
〇会社の代表者であったこと。
〇被相続人と同族関係者で、発行済み株式総数の50%超の株式を保有、かつ同族関係者の中(事業承継相続人を除く)で筆頭株主であったこと。

~相続人(後継者)について~
〇会社の代表者である事
〇被相続人と同族関係者で、発行済み株式総数の50%超の株式を保有、かつ同族関係者の中で筆頭株主であること。
※本制度適用後、5年間の下記継続要件があります。

◎代表者である事
◎雇用の8割以上を維持
◎相続した対象株式の継続保有
担保について・・・この特例を受けるためには、原則として納税猶予の対象となった株式等の全てを担保に供しなければならない。

~「納税免除」と「納税猶予の取り消し」~
「納税免除」 後継者の死亡・その他「一定の要件」・・・納税が猶予されていた部分が納税免除になります。
「納税猶予の取り消し」
下記事項に該当した時点で、猶予が取り消され、猶予されていた相続税+利子税を払わなければならなくなります。

―申告期限から5年以内―

〇毎年1回の報告を怠った場合
〇代表者でなくなった場合(不慮の事故などは継続認定)
〇雇用の8割が維持できなかった場合
〇会社が倒産・解散した場合
〇対象株式の一部でも譲渡
〇持株比率要件を満たさない時(50%超と筆頭株主)
〇適用対象外会社等(上場会社)になった時

―5年超の事項―
〇対象株式の譲渡・・・譲渡した対象株式分の納税猶予取り消し

「民法特例」と「遺留分の生前放棄」との違い

民法特例を使わなくても、遺留分を生前に放棄すれば、問題が無いのでは?
と考える事もできます。しかし、遺留分の生前放棄は、遺留分権利者個々の自発的な意思によってしか放棄はできません。
つまり、被相続人等の強制によって遺留分を生前に放棄させた場合は、家庭裁判所の調査により放棄が取り消しになります。
また、遺留分の生前放棄は、遺留分権利者それぞれが家庭裁判所に申し立て、許可を得なくてはなりません。
その点、民法特例は相続人全員が合意すれば、後継者単独の申し立てで、家庭裁判所に許可を得る事が可能です。

自社株の贈与・・・暦年贈与と精算贈与

事業承継対策の一つに自社株の生前贈与があります。それは大きく分けて二つのやり方があります。
(暦年贈与)
110万円という基礎控除の範囲内で、あるいは、少し基礎控除を超える範囲内で自社株の贈与を繰り返す方法。暦年贈与は贈与金額が多ければ多いほど、税率も累進で高くなっていきます(10%~50%)。

精算贈与)
平成15年に相続時精算課税制度(精算贈与)が誕生しました。この時は、一般精算贈与(65歳以上の親から20歳以上の子へ、2500万円までの贈与は非課税、それを超える金額は一律20%課税)と住宅精算贈与(親から子へ住宅取得の為の資金の贈与。3500万円まで非課税、それを超える金額は一律20%課税)の2種類ができました。
平成19年には自社株の特例贈与(60歳以上の親から後継者である子へ自社株に限定して3000万円までは非課税。それを超える金額は一律20%課税)が誕生しました。このことにより、自社株の評価額が下がった年に一気に後継者に贈与する事ができ、経営の移譲がより進めやすくなりました。

「民法特例」の骨子

「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の3つの柱の1つ、「遺留分に関する民法の特例(民法特例)」に関してご案内いたします。
具体的には、後継者に生前贈与した自社株式について他の相続人全員の合意と一定の手続きにより、
①過去に贈与した株式を遺留分の計算基礎から除外する事ができる。(除外合意)
②過去に贈与した株式の評価額をあらかじめ固定化したものを遺留分の算定に加える(固定合意)
このいずれかができるようになりました。
これにより経営者の生きている間に、後継者に完全に経営権を移す事ができるようになります。
(民法特例は平成21年3月1日より施行)

民法特例ができた背景には、事業承継の障害となる大きな要因に、後継者に自社株式が集中できないケースがあるということです。
自社株式が相続財産の大部分を占める経営者にとって、生前贈与や遺言で後継者に集中した、もしくは集中するように施策をうっていたはずが、相続発生後、後継者以外の他の相続人より、「遺留分の減殺請求」が起されると、後継者は遺留分を侵害した部分に相当する財産を他の相続人に渡さなければいけません。当然、自社株式が大部分を占めますので、自社株式を渡す事になります。そうなれば株式が分散し、経営が不安定になってしまうのです。
「遺留分」とは・・・
遺留分とは、民法により法定相続人に認められた最低限の保証の事です。遺言や生前贈与等で行過ぎた財産処分を防ぐために設けられています。ポイントとしては次の3つです。
〇遺留分権利者は、配偶者・子(直系卑属)・親(直系尊属)であり、兄弟姉妹にはありません。
〇遺留分額は、親(直系尊属)のみが相続人の場合3分の1、その他は2分の1です。
〇遺留分を侵害された場合は、「遺留分の減殺請求」を家庭裁判所に出して、侵害分を請求できます(相続開始及び遺留分を侵害している遺贈・贈与があることを知った時から1年以内。または、相続開始を知らなくても相続開始から10年以内に行わないと時効になります(民法1042条))。

遺留分を侵害するのは
「遺言によって財産が相続された場合」
「生前贈与財産(特別受益)があった場合」
主に上記の2ケースを要因として起こってしまう場合があります。
遺産分割・遺留分算定に関しては、「税法」でなく「民法」の話です。遺留分算定には
①過去・相続人に贈与された財産(特別受益)を全て持ち戻して算定の基礎を算出します。
②持ち戻す金額は過去の贈与時の財産ではなく、相続発生時点の評価額で持ち戻します。
※生命保険金や死亡退職金は原則、特別受益とはなりません。

事業承継において、特定の後継者に会社の経営権である自社株と事業用の財産を継がせたいときに、相続財産の大部分が自社株であれば、相続人の法定相続分はおろか、遺留分も侵害しないと、円滑な事業承継はできない可能性は十分にあります。かといって遺留分の減殺請求を起されたら・・・という不安もあります。このような状態を改善していかなければ円満な相続はありえません。
「自社株の生前贈与」は事業承継対策や納税対策としては非常に有効な手段である事は言うまでもありません。今回の「民法特例」は自社株の生前贈与に関わるリスク(遺留分算定における特別受益の持ち戻し)を軽減できる特例なのです。

①民法特例「除外合意」について
相続が発生しても、経営者である被相続人の現存する財産のみを基に遺産分割を行う事であり、過去に後継者に贈与した自社株を持ち戻さないと言う事です。
※この民法特例を使うには必ず相続人全員の合意が必要です。

②民法特例「固定合意」について
具体的には、「除外合意」について納得できない相続人がいた場合、「固定合意」を使って、後継者に対して過去に贈与された自社株式を遺留分の算定に加えます。
ただし、贈与以降の価値の上昇分については、後継者の努力分が含まれる為、それを除いて、「贈与時点の価額に固定」して遺留分に加える事にします。
通常は自社株の場合は被相続人死亡時の相続税評価額で持ち戻しますが、固定合意は贈与された自社株の価額を贈与時で「固定」する事ができるのです。
それなら他の相続人も納得して合意するでしょう・・・という事を可能にしたのが固定合意です。
民法特例が適用される企業は業種・資本金の額・従業員数 によって異なります。
詳しくはお問い合わせ下さい。
この制度ができた事により、経営者が自分が死んだ後の事について後継者や他の相続人と話し合いを持つ「きっかけ」ができたともいえます。一番避けなくてはならないのは、話し合いが何もなされず、遺言も無く、ただ、経営者が突然亡くなってしまう事です。円満で、円滑な相続・事業承継対策は是非とも早めにご検討下さい。

「経営承継円滑化法」3つの柱

平成20年度5月9日に国会で成立し、同年10月1日より施行されました中小企業の「経営の承継の円滑化」に関する法律(経営承継円滑化法)について3つの大きな柱をご紹介いたします。
①民法特例
○贈与株式等を遺留分算定基礎額から除外(除外合意)
○贈与株式等の評価額を固定化(固定合意)

②金融支援
○中小企業信用保険法の特例(会社の資金需要)
○日本政策金融公庫法の特例(後継者の資金需要)

③税制措置(税法特例)
○取引相場の無い株式における、「相続税80%納税猶予制度」の創設
になります。

種類株式について

平成18年5月1日施行の会社法により、9種類に整理・拡充され、活用の幅が大きく拡がりました。今後、種類株式は非公開会社の事業承継に大いに役立つ事が期待されます。

(種類株式の通称)
○剰余金配当の異なる株式・・・剰余金配当について優先又は劣後する株式
○残余財産分配の異なる株式・・・法人解散時の残余財産分配について異なる株式
○議決権制限株式・・・議決権の一部を制限又は議決権が全く無い株式
○譲渡制限株式・・・譲渡について会社の承認が必要な株式
○取得請求権付株式 ・・・株主が会社に買取を請求できる株式
○取得条項付株式・・・会社が一定の条件を満たした時に取得できる株式
○全部取得条項付株式・・・株主総会の特別決議※で全部を取得できる株式
○拒否権付株式・・・定款で定めた決議事項について拒否権のある株式
○役員選解任権付株式(非公開会社のみ発行)・・・取締役・監査役の選解任権のある株式
○属人的種類株式(非公開会社のみ発行)・・・議決権・剰余金配当・残余財産分配の3項目について株主ごとに異なった定めができる株式
※定款に定める場合(総議決権の3分の1以上)を除き、総株主の議決権の過半数を有する株主の出席、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成により成立。
種類株式の活用により経営権と財産権を分離したさまざまな対策の実行が可能となりました。

代償分割

代償分割は、遺産分割の一つの手法で、例えば生命保険の場合、複数の相続人を保険金受取人にする(生命保険①被保険者:被相続人、受取人:長男 生命保険②被保険者:被相続人、受取人:長女)のではなく、いったん生命保険金を含む全ての財産を「遺言」で特定の相続人に渡し、その受け取った保険金の中から他の相続人に対して本来の財産の代わりに現金を「代償交付(分割)財産」として渡す方法です。
特に被相続人が自社株や不動産中心の財産を持ち、それを特定の人や後継者に継がせたい場合に使います。
生命保険金は「みなし相続財産」であり、土地や建物、預貯金等の本来の相続財産ではありません。したがって本来の相続財産とは別枠となり、「遺留分の減殺請求」の対象財産にも原則含まれません。また、もちろん代償分割財産は「贈与」とはなりません。

贈与についての二つのポイント

①贈与は諾成契約です。
贈与は諾成契約なので口頭での「あげます」「もらいます」のようにお互いの合意、了解があれば贈与は成立します。しかし他社に対しての証拠はありませんので、下記のような贈与契約書を作成することが必要です。
②贈与は単年契約です。
毎年贈与した証拠としては、毎年贈与契約書を作る必要があります。同時に毎年作成してますという証拠を残すために、毎年の贈与契約書に公証人役場でその都度、確定日付の承認印を得ておきます。
贈与契約書(例)
贈与者甲野太郎(父)と受贈者甲野次郎(息子)の間で、今般下記の通り贈与契約を締結した。
第1条 甲野太郎は、その所有する下記の物件を甲野次郎に贈与することを申し出て、甲野次郎はこれを受諾した。
(贈与物件の表示)
1.現金98万円
第2条 甲野太郎は前条記載の贈与物件を、平成○年×月△日までに甲野次郎に引き渡すこととする。
上記契約成立の証として本書を作成し、当事者署名押印の上、各壱通を所持する。
平成年月日

都道府県市区町村番地

    贈与者 甲野太郎  印

都道府県市区町村番地

    受贈者 甲野次郎  印